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光の翳にある闇。それを覆い隠すという事を、人は獣のような鋭さで逸早く覚えた。
灰被りへの仕打ちの報復として、平和の象徴たる白い鳥に、両の眼球を突き取られた継母と姉。
白き姫への嫉妬心の代償として、赤く焼けた鉄の靴を履かされ、狂いに狂って舞い散った王妃。
幸福を勝ち取った者の翳に確かに存在するのは、そこに至った原因がどうであれ、傷つき、苦しみ、そうして無様に醜く野垂れ死んでいった者。
されど、それらの存在は教育の健全化の名の下に巧妙に隠蔽され、そして、触れてはならない禁忌の存在として人々の流れの中で脈々と受け継がれてきた。
親から子へ、教師から生徒へと。闇を恐れ、闇に目を背ける事を、人は美徳として継承し、伝承してきた。
闇を悪とし、光を善とする事で、世界は清廉なるもので厚く塗り固められた偽りの秩序を作り上げていった。
闇がそれでこの世から消えるわけでも、また闇が光に変わるわけでもないというのに。
この世にある幸せというものは須らく、誰かの苦痛と死という、深い深い闇の上に築かれるという事は変わりないというのに。
光の翳にある禁忌という名の深い闇は、そしてそこに追いやられた者達は、今も現世には届かぬ怨嗟の声を上げ続けている。
永遠に訪れる筈などないというのに、踏みつけられた者、虐げられた者の勝利を虚しく待ち続ける者達。
ほんの一時でも暇があるならば、試しにその心を鎮め、両の耳を世界に澄ませてみるといい。そこから彼等の声が幽かでも聞こえるだろうから。
そして、彼等の住まう闇へ繋がる重き扉がそこにあるのが分かるだろうから……。
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