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「よーし、今からサッカーのシュート練習を行う。お前等、しっかりあの薄ら馬鹿の米田を狙うんだぞ!!」
そうしてざっと小一時間それは続いた。全身を縛られて身動き一つ出来ない自分の顔に、足に、胴体に……容赦なくボールは飛んできた。体や顔に青痣が出来、黒縁眼鏡は打ち壊され、ジャージも土埃まみれになり……少年はたった一時間でまさに満身創痍の状態になった。
終業の礼をして去って行くクラスメイト達。縄を解かれ、教師と二人きり取り残された少年に、教師は容赦なく告げた。
「米田。苛めを受けるなんてお前、本当に最低だ。考えても見ろ、ウチの学校で苛めがあったなんて事がマスコミに知れたら一体どうなると思う? 学校の評判落ちて、来年度の生徒数が少なくなったらお前のせいだからな」
はっきりと、少年は悟った。
学校にとって結局自分は害毒でしかないという事、そして自分の味方などどこにもいないという事を。
……ある日、ついに我慢しきれなくなって、少年はちょっとした復讐に打って出た。
それは移動教室の授業の時。担当の教師にトイレに行きたいと言って教室を抜け出し、奴等の教科書や上履き、鞄などを有りっ丈手に取り、そのまま校舎裏の焼却炉へ全て投げ込んで灰にしてやった。
自分の怒り。それを、奴等に思い知らせるつもりでいた。
これだけ派手にやれば流石に奴等も、自分の本気というものに恐れを為して苛めを止めるだろう……そう考えた。
尤も、その全ては、苛めグループという火に油を注ぐだけの、所謂愚考そのものでしかなかったわけであったのだが。
しばらく平穏な日々が流れ、土日を挟んで翌週の月曜日。復讐という正義を行使し、意気揚々と登校した少年を待っていたのは、校門前に仁王立ちしていた担任からの朝一番の呼び出しだった。
職員室ではなくいきなり校長室へ連れて行かれ、教師一同にずらりと周囲を取り囲まれた。
その一人一人が自分に刺し貫くような視線を向けている。どういう事かと尋ねる前に少年を襲ったのは校長の怒号だった。
「一体これは何なんだ!!」
漆塗りのいかにも高そうな接客用テーブルの上にあったのは、理科室で何度も見た、透明な粘性のない薬品が入った寸胴のガラス瓶。いや、正確に言えば、口の部分をラップで覆った、目盛入りのビーカーか。
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