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ラベルに書かれていた文字は『トルエン』……。模型店などで手に入るラッカーシンナーの主成分で、依存性も極めて高い危険な薬物だ。これが自分のロッカーから出て来たのだという。
「トルエンを吸っていたとは何て奴だ。コンビニや書店で万引きするのとはわけが違うんだぞ!!」
「ト、トルエン? そんな……こんなの…………」
無論、少年の身に憶えはない。強力な劇薬であるトルエンは、薬局で一介の高校生が簡単に手に入れられるような代物ではない。
入手ルートがあるとしたら駅前やら呑屋街やらを根城にする売人くらいだ。そのような者は少年のような真面目な人間であればコンタクトも儘ならない。
(まさか、あいつ等が、僕を嵌めるために……!!)
あいつ等ならやりかねない。全ては復讐に対する報復なのか、それとも自分への完全なる止めのつもりだったのか。
どうやらあの時、自分の復讐は誰かに見られていた。そして自分は奴等を本気にさせてしまった。その結果が、これだ。
自身の詰めの甘さを少年はとことん呪った。苦しみや痛みを耐え忍ぶ勇気も、面と向かって奴等に立ち向かう勇気も、死という最後の逃げ道を選ぶ勇気すら持ち合わせなかったばかりに、こうして最後の最後で身の置き場を自ら失ってしまった、というわけだ、自分は。
「兎に角。こんな事態になった以上、米田。お前は退学処分だ!!」
「待ってください! 僕は何もしてません!!」
「五月蝿い! もうこの件は日本中のマスコミの知る所なんだ。せめて刑事告訴されないだけ有難いと思え!!」
彼是二〇分くらい、少年は教師の言う事とはとても思えない罵声を、絶える事無く浴びせられた。
それらはもともと脆弱な少年の精神を、ボロボロに壊すには充分すぎた。
――どうして僕が、こんな目に遭わなければいけないんだ。
身長が人より低い所為か。眼鏡を掛けている所為か、茸みたいな髪をしている所為か。
それとも、そんなガリ勉丸出しの出で立ちでありながら、ちっとも勉強が……学生として当たり前の事が当たり前に出来ない所為か。
兎に角そうした要因が積もり積もって、自分は壮絶な苛めの標的となった。そしてそれを止めさせる為に、復讐という自分の中の正義の行使に訴えた。
だが自分を待っていたのは、自分を犯罪者にでっち上げるという彼等の更なる報復、そして何も知らぬ……いや、知ろうとせぬ大人達による理不尽な制裁。
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