第1章

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『仕方ないわ。お仕事なんですもの』 ふかふかマットレスの敷かれたベッドの上に私は座り、携帯電話を相手に喋っている。 窓から差し込む朝焼けよりも、目覚まし時計のアラームよりも私の眠りを妨げたのは、枕元に置いていた携帯電話。 お父さんから小学校に入学する前日にメタルホワイトピンクの携帯電話をプレゼントされたの。 とある友人の手作りだと聞いたことがあったけど、誰かは教えて貰えなかったわ。 その機能として、子供が観てはいけないサイトは強制排除されているらしいのね、いまいちそれが何なのか解らないけれど。 ……で、大まかに通話、メール、世界中の辞書が入っているだけのケータイ。 辞書は勉強に役立つ。 けれど、大抵お父さんに聞いた方が早かったりするのよね。 日本で大昔に普及した黒電話の鳴る音を設定しているの。 その音が耳元で甲高く鳴って、私は起こされた。 眠い中でもぞもぞと携帯電話を握り、瞼の開かないままに通話を始めたわ。 「…ん…はよー……ダディ」 眠い脳で、相手が誰だかを察した私は、眠い声で言葉を返す。
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