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「あゆむー!!」
力いっぱい叫ぶ。
深々と降り続く雪。既に周囲は薄暗くなっている。
「どこ行ったんだろう。学校だと思ったんだけど。」
校庭を見回すけれど、どこにも弟の姿はなかった。
不安がどんどん増してくる。
『どうしよう。弟にまで何かあったら・・・。』
その時だった。
微かに人の声が聞こえる。
弾かれた様に、声が聞こえた方向に走っていくと、更にはっきりと声が聞こえた。
「きーちゃぁん・・・・!」
必死になって姿を探す。
弟の赤い帽子を見つけた時、安堵と共に恐怖の声が出た。
「あゆむ!何でそんな所に!」
あゆむは学校一大きなけやき木の枝に、必死の形相で掴まっていた。
「動いちゃダメよ!」
「きーちゃん、助けてぇ・・・。」
「すぐ行くから!!」
けやきの木を見上げる。
あゆむは地上3mら辺にしがみついている。
いつもだったらこれ位の高さはへっちゃらだったけど、昨日から降り続いた雪のせいで、木肌に雪がびっしりと付いていた。
『登れるかな・・・。』
自分が落ちる光景を想像して、ぞっとする。
だけど、あゆむを助けられるのは私だけだった。
勇気を出して木の幹に手をかける。
ごくりと唾を飲み込んだ時、よく通る声が聞こえた。
「肩借りるよ。」
返事をする間もなく、トンっと肩に重みを感じる。
驚いて見上げると、男の子がするすると木を登っていく。
危なげもなくあゆむの所まで到達すると、あゆむを抱いて、またするすると降りてきた。
「きーちゃん!怖かったよー!」
「あゆむ、あんた何でこんな所に・・・!」
「ごめんなさぁい。」
べそをかきながら、あゆむが抱きついてくる。
まだ小学校2年生の小さな体は、寒さと恐怖のせいかガタガタと震えていた。
ぎゅっと抱きしめると、あゆむは大きな声で泣きじゃくる。
「怪我なくて良かったな。」
声の主に視線を向けると、男の子はにっこりと笑った。
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