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僕は一歩、また一歩と、近付いて刀身を握ろうと手を伸ばす直前、先生が喉の奥
「馬鹿!」
と呟いて、刀を退かしてくれた。
それじゃあ僕の意志が伝わらないですよ。
「……先生の側にお仕えできないならば、斬られた方が余程幸せです」
土方先生はハッと一瞬眼を丸くして、また刀を納め、溜息した。
「なんでこう……俺の周りは駄々っ子ばっかなんだ」
駄々っ子ばかりって……誰のことだろう……って、ヒドイです! 僕はもう十五ですよ!
すぐに猛抗議に出たいところだけど、先生が僕に背を向けて、窓の向こう……ずっと遠くを見詰めているみたいで黙り込むから、僕も硝子に映る顔を見ようとするぐらいしかできなくなった。
「戦場で死ぬより、ずっと尊いことだ。だからこそ、お前に任せたい。俺の言う意味は……鉄、お前もいずれわかるだろう」
ひどく微笑んでいたから。
だから僕はもう涙が止まらなくて、厭とは言えなくなって、先生は
「やれやれ」
と振り向いた。
「見ろよこの男前。百年後の女でもオトせるぜ?」
「っぷは!」
「テメッ! なんだその笑い!」
得意気に、確かに男前な写真を見せられて泣き笑いに苦しくなっている僕に、土方先生は一言も別れの言葉を掛けなかった。
でも、お預かり物を抱えて歩く僕が先生の部屋の窓を何度も見上げると、いつまでも、そこには黒い影ができていた。
だから今日は、離れて行く道でも進んでいける。
だから今日は 了
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