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「夏がきたぜ!」
「毎年恒例!」
『ドキッ! 壬生浪だらけの水泳大会~!』
入道雲の白と眩しいくらいの空の青。その下で、自らを勧んで蔑称で呼び上げる男が二人。
普段から、そう後ろ指さされようと気にもしない新撰組幹部・永倉新八と原田左之助の周りでは、沸き上がる怒濤のような歓声で、波のさざめきがかき消されていた。
治安維持に当たる京洛の市民に感謝すらされず、むしろ怯えられようと屁でもない、と思えるようになったのはやっと最近のこと。
先月の祇園祭の宵宮、殊更聞こえの良いように言うと……池田屋に潜伏した不逞浪士を見事鎮圧した、という手柄を挙げ、幕府から多額の報奨金を授けられてからだ。
大名になったと騒ぐ者がいる程の褒美が嬉しいのはもちろんだが、所詮田舎の暴れ浪人集団と低く見られていた自分達の実力が認められたことが何よりもの喜びだった。
その勢いで今日、これから“恒例”になる予定の水泳大会を催そうというのだ。
「あれぇ? 総司くんは泳がないの?」
池田屋で眉間に食らった傷が痛々しく残る藤堂平助は、少し箔がついたもののどこか幼さの残る顔を傾げる。
訊かれた沖田総司は、次々脱ぎ始めて褌一本になっていく群れの中で、いつも通りきちんと袴を穿いたままだった。
「カナヅチなんですぅ」
「嘘ぉ!? そうだっけぇ?」
ヘラリと顔色も変えないが、嘘である。
やはりこちらも池田屋で、沖田は掠り傷一つ負わないものの、真夏の盆地特有の暑さとそれ以上の熱気に当てられ昏倒したのだ。
以来、どうも躰の調子が悪く、しかし誰にも言えぬまま、精一杯普段と同じように振る舞っていた。
「総司くんが出ないなら俺もやめよっかなぁ」
藤堂は軽く、子どもっぽい舌打ちをして、両手を首の後ろで組んだ。
「ふざっけんな平助! 水に浮く奴は強制参加だ!」
「うあ! 離して左之さん!」
抵抗虚しく連れ去られて、というか既に海に放り込まれている藤堂の他に、もう一人、参加を渋り出す男がいる。元来、このような催しに姿を現すことすら珍しい、斎藤一だ。
「ほら斎藤、とっとと位置に着けぃ」
「……私はいい」
何がそんなに気に食わぬのかいつも寄っている眉間の皺が、殊の外に厳しい。
「張り合う相手がいねぇからって悄げんなよ」
と、永倉が肩を叩きながら吐いた科白が、その理由らしい。当然、真顔を崩さないままに否定するが。
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