8人が本棚に入れています
本棚に追加
「……かえってきた」
俺は一言口にする。
これは合図。
お互いに決めた合図。
精神異常を来して、ある程度安定した時に発する合図。
これを言う決まりで、それを聞くまでは何も言わず、周りの目を向けないようにする決まり。
「もう家の近くだよ」
「悪いな……」
「謝らないでよ。それは言わない約束でしょ」
そんな約束はしてないけれど、そんなやり取りは御約束。
こんなことで頼りに……いや共倒れできるのは胡凪だけ。
それは、偶然知ったのが胡凪だったからで、違う人だったとしても変わらない。
それは持ちつ持たれつの問題。
だから、この関係には。
なにもない。
これは俺だけが思ってることではなく、むこうも同じだろう。
「ほら、行くよ」
手ではなく腕を引っ張られる。
俺は手を繋ぐのも繋がられるのも出来ない。
あの精神異常の引き金になりかねない。
もう手はトラウマなのを理解してくれているので腕を掴まれる。
そして、俺はこれが嫌でも振りほどけない。
それはアイツの引き金を引くことになるから。
最初のコメントを投稿しよう!