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「書き終わりました」 僕が紙を渡すと、女性はそれをシュレッダーのような小さな機械に放り込んだ。ばりばりと音がして、紙は機械の中へ食べられてゆく。 「……はい、おめでとうございます。あなたは"42"に決まりました」 紙が消えるか消えないかのうちに、女性は僕にそう言った。 「以前の42の方がつい先日亡くなられたばかりで、丁度空きがあったのですね」 感謝しろとでも言いたげな口振りだった。けれど、と僕は考える。僕はもう42なのだ。とある世界では生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えとまで言われた、あの42だ。数字と人間の強さの関係は分からないが、それなら僕は目の前のこの女性よりずっと偉いのではないだろうか。 「……ありがとうございます」 けれど僕は、それを盾にするようなことはなかった。数字と人間の力関係は知らない僕でも、数字が人間相手に威張ったりしないことだけは分かっている。 「下の階の女性がいるでしょう」 相変わらず事務的な調子で、彼女は言った。 「私は彼女になりたかったのです。けれど、彼女という枠は既に彼女自身で埋まっていましたから、こういう手段を取る他にありませんでした」 女性が服の袖をまくる。と、つるりとしたプラスチックの肌と、球体の嵌めこまれた関節があらわになった。 彼女はマネキンだったのだ。 なるほど、と思った。本当なら彼女は、洋服を着て座っているだけの存在だったのだ。それなのに僕のために手続きをしたり、書類を申請してくれたりしたのだから、感謝すべきは僕の方だったのだろう。さっき、大きな態度を取らなくて本当に良かった。 僕はそのマネキンに軽く会釈して役所を出た。
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