ゴールデンウイーク

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ズシャ!! っと、音がした。途方もない激痛が走り意識が飛びそうになった。皮膚が地面と衝突する。頭蓋骨が陥没し、肉が抉れる。脳味噌が潰れ、血と脳漿が体外に吹き出す。自分の心臓の音が少しずつ小さくなっていくのがわかる。ドロドロと血の池に沈みながら、口を開く。 「…………ぁあ、また、死ねなかった」 不幸ではなかったと思う。同じくらいに幸せでもなかった。不運な生い立ちだったわけじゃないし、友達だっていた、いじめられたことはないし、悪事に手を染めたことはない。だから、物心ついた頃から、『幸福』について考えることが多くなった。 誰もが幸福になることを考え、努力する世の中だしかし、幸福とはなんだろう? お金持ちになること? 大切な人と一時の時間を過ごすこと? 幸福とはなんなのか? 漠然とした問題がそこにはあっても、気にかけることでも、思い悩むことでもなかった。たぶん、考えたところで答えなんて出ないことがわかっていた。 だから、私にとって一番、幸せだと感じた一週間だったと、思う。 ゴールデンウイークだった。幸福だと感じた一週間だったーーーーなのに、グシャ!! 落ちる。高所から落ちて、脳味噌が潰れる。血だまりに沈んで死ぬ。積み木を積み上げるのは時間がかかるのに、それを崩すのは一瞬だ。 幸福が、積み上げていって、一瞬で崩れ落ちていく。それを、ずっと繰り返している。もう『幸福』だった部分は消え去って『不幸』だと感じる部分、自分が死ぬ場面ばかりが脳裏にこびりついていて離れない。 ギュルギュルとビデオテープでも巻き戻していくように、一週間前に戻り、あっという間に過ぎ去って、ズシャ!! と、落ちる。死ぬ。生き返る。 この一週間が永遠に続けばいいと思った。永遠に続けばどんなに幸福だろうと思ったけれど、こんな終わり方は嫌だ。 グシャ!! 潰れる。吹き出し、死ぬ。 ギュルギュルと、巻き戻り、繰り返す。 グシャ!! 潰れる。吹き出し、死ぬ。 ギュルギュルと、巻き戻り、繰り返す。 ザザッと、ノイズが走る。血だまりに身を沈めながら『言葉』が聞こえてくる 『…………さ、ザザッ、ジジジジッッツジジジジッッツ…………』 ほとんどノイズだらけの言葉がだんだんはっきりしてくる。 グシャ!! 潰れる。吹き出し、死ぬ。 ギュルギュルと、巻き戻り、繰り返す。 『人ってやつはさ…………』
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