中章

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この街では月初めに人も物も激しく動く。昼間に大門が開き商人や、ひいきの旦那様が人や物を売り買いする。その様をのんびり眺めている遊女が一人。 「雪椿(ゆきつばき)、市には行かないのか?洋菓子店も来ているみたいだぞ。」 肩で切り揃えた髪を揺らし活発そうな少女が声をかけた。 「おかえりなさい若葉(わかば)、私はいいかな。朱理(しゅり)に必要な物はそろった?」 透き通る白い肌に柔らかな印象を与える瞳。幼く見えるが黄桃に入って5年、雪椿は天井争いをする売れっ子遊女だ。 桜町の遊廓は大きく分けて三つ。5歳から12歳までの稚児をそろえた白桃。13歳から29歳までの遊女、男娼のいる黄桃。30歳以上で遊廓に残る者たちのための黒桃(こくとう)。白桃からの繰り上がりには黄桃の者が姉として付き、面倒を見る決まりがある。 雪椿の姉の遊女が先月旦那様に身請けされ、入れ違いに朱理という妹ができたのだ。 「一応、簪(かんざし)から着物、紅や白粉も揃えてみたけど…後は雪椿の見たてでよろしく!」 若葉は朱理の小さな背を押して部屋の中に入れた。 「取り敢えず、今夜のお披露目用に目一杯着飾ってみようか?」 柔らかな声に朱理の緊張も少しはほぐれたように見える。二人は簪や帯を見ながら楽しそうに会話を広げた。
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