中章

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日が暮れ、軒先にあかりが灯れば妖艶な雰囲気をかもしだす。朱理のお披露目に立ち会ったのは白桃からの馴染みという、華奢な体躯に切れ長の瞳の男だった。 「珀斗(はくと)しゃん!」 朱理は嬉しそうに駆け寄り珀斗と呼んだ男に抱きついた。 「朱理、今日は何時もより可愛いね。」 珀斗はひょい、と朱理を抱き上げ部屋の中に入ってきた。奥の座敷に座る雪椿に気付くと一瞬目を見張り、ふっと妖艶に微笑んでみせた。 「朱理の姉さんは愛らしい方だね。初めして、珀斗と申します。」 珀斗は朱理を下ろし、柔らかに波打つ髪をかきあげた。 「雪椿と申します。ふふ…そんなに警戒しないでくださいな。今日はお披露目だけでお手付きにはなれませんし、ゆっくりお話でも如何かしら?」 にっこり笑い返した雪椿は、座るように促した。しばらくすると、声がかけられ、若葉が善を持ってはいってくる。 「雪椿より朱理の祝い酒に御座います。」 朱塗りに金の花が咲く酒器は正月などの特別な行事にしか使用できない貴重な一品だ。 「朱理がこれからも健やかに、笑顔の多い日々を過ごせるように。珀斗さんも一緒にお祝いしてくださいますか?」 杯(さかずき)を珀斗に差し出して雪椿はそっと小首を傾げてみせる。 「もちろん。朱理に良い縁がありますように。」 若葉が杯に薄桃色の液体を注ぐと、軽く掲げて一気に飲み干した。 「…きっついねぇ、甘い匂いに騙されたよ。朱理は飲んじゃだーめ。」 手を伸ばしてきた朱理をけん制して、珀斗は若葉に杯を返した。杯を受け取った若葉は次いで雪椿に酌をする。 「桜町名物、桃喜酒(とうきしゅ)です。これは原酒ですから、かなり強いと思いますよ。朱理には桃水をあげるわね。」
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