第1章

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 綾香は苛立っていた。 慣れない団地生活と初めての育児が彼女から母性愛と云うものをすり下ろしていた。  赤ちゃんの鳴き声が無性に気に障る。  頭では分かっている。赤ちゃんが泣くことは当たり前の事だと。私を必要としてくれるのだと。 でも、感情は悲鳴を上げている。  コンクリートの檻に縛られて昼夜を問わず赤ん坊に縛られている。  大体、赤ちゃんが産まれた時にしばらく泣かなかった。だからしばらく母乳を絞って集中治療室に飲ませに行った。  退院してから新しい我が家となった団地生活に戻って来た。それなのに、日に日に心が重くなった。  団地生活のせいなのか、知り合いのいない土地のせいなのか?  綾香は鬱憤の吐き出し口を夫に持っていくしかなかった。  夫は優しい人だったから綾香の不満を受け留めてくれた。
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