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「短い間でしたがお世話になりました」
彼は私の顔を見ずに、抑揚のない声で言葉を放った。
「……こちらこそありがとうございました。短い間でしたが、とても楽しかったです」
彼は私の顔を見てはいないけれど、にこりと笑う。
言葉に嘘はない。私の素直な気持ちをそのまま言葉にしたのだから。
それでもたぶん彼は思うだろう。
ただ形だけの別れだからと。
「……」
「僕はこれで失礼します。さよなら、リラさん」
そして彼はお辞儀をして、お店から出ていった。
「……顔、見てくれなかったなあ……」
呟いたその音は彼の耳には届かない。ただ私の耳に届き、そして消えるだけだ。
「……」
去っていく彼の背中を寂しく思いながら、でもどこか他人事のように見ている自分がいた。
「……んー」
彼は私のパートナーだった。とっても優秀で笑顔の優しい人。だけど私のところでは勉強にならないと、他の魔法使いのところへ行くのだ。
「……」
パタンと扉が閉まると、扉に付けている鈴が寂しく鳴った。
「……はぁ。やっぱり慣れないな」
じくじくと痛む心に触れて目を閉じる。こんなにも心が寂しいと叫ぶなら、行かないでとすがるべきだったかな。
「……」
でもそれは違う気がして、去っていった彼を忘れようと首を横に振った。
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