人を愛した、アナタ

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広く青い海が見える崖の上。 そこには似つかわしくない、黒いローブを身に纏った人が立っていた。 私は迷わずその人に話しかける。 「久しぶりだね、シュルト」 「あぁ」 「急にどうしたの?」 「お前に頼みたいことがある」 「頼みたいこと?」 「あぁ。サラという女性を探してほしいんだ」 サラ……その名をどこかで聞いたことがあるような。 んー、でも忘れてるってことは大したことじゃないんだろうけど。 あれ……それより私って魔法使いだよね。 探偵とかじゃなかったはず。 「ちょっと待って。私、魔法使いだよ」 「そんなことは知っている。それで依頼は受けてくれるのか?」 「いや、だからね私、魔法使いなんだってば!そんなこと出来るわけないでしょ!!」 「お前にしか頼めないから、こうして来てもらったんだ」 ……意味がわからない。この世界に、人を捜すのを専門とする人は沢山いるのに。 なぜ私なんだ。 「お前の得意術に《記憶の蘇り》があるだろう。それをやってもらいたい」 「ちょっと待って!シュルトの依頼は《サラを捜して》でしょ?その術は人を捜すためにある訳じゃないから、使っても意味がないよ」 「……言い方を変える。クルファマの土地を少しの間だけ、昔のようにしてほしい」 「クルファマって、確か……」 「そうだ」 私の言いたいことを察したのか、シュルトは言葉を遮り肯定した。 ……あ、なんか大変なことに首を突っ込んだかも。 そう思ったころには時既に遅し。 私には諦める選択しか残っていなかった。 それに気づいた私は、シュルトから視線をずらし、彼には聞こえないよう小さく息を吐いた。 そして視線をシュルトへ戻し、じっと見つめる。 「シュルト……依頼を受ける前に一つだけいい?」 「なんだ」 「過去は変えられない。それだけは覚えておいて」 瞬間、切な気に伏せられる瞳。 「……わかっている」 出てきたその言葉は微かに震えていた。 私はその事に気づかない振りをして、シュルトの依頼を受ける。 「すまない」 ……あぁ、やっぱり。私の心が敏感に反応する。 シュルトの溢れんばかりの……サラっていう人への優しい想いに。 .
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