魔法使い、パートナー訪れる

2/7
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
 パートナーがお店から去って早くも十日が過ぎた。寂しくないと言えば嘘になる。だけど寂しいと落ち込み続けていても前には進めない。だからここ十日はその事を考えないように過ごした。 「うう、でも寂しいものは寂しい……」  パートナー希望の人じゃなくてもいいから、誰か話し相手になってくれないかな。  そう思っていたら、お店の扉が鈴を鳴らして開いた。私は慌てて顔を上げて、声を出す。 「いらっしゃいませ」  重そうな荷物を抱えてお店に入ってきたのは、学生時代からの友人だった。 「あ、サクラ! いらっしゃいませ」  ぱあああと心が明るくなるのを感じる。話し相手になってくれるかな。うん、きっとなってくれる。 「やほ、リラ君」  サクラは眩しい笑みを浮かべ、私の前に持っていた重そうな荷物を置いた。 「これさ、リラ君に贈ろうと思って討伐したんだよ」  ……おおう、眩しいぜ。そんな事を言われたら、君の性別を知らない女性たちは勘違いするぞ。なんて声には出さないが思う。 「いやいや、声に出てるよ」 「え、嘘だよね?」 「ホント」 「おおう……!できれば今のは聞かなかったことにしてほしいな」 「いいよ。でも高いよ?」 「い、いくら?」 「リラ君の唇」  何ともないかのように、爽やかに笑いながらサクラはそう言った。  そのせいで私の頭は一瞬働くのをやめた。 「……あ、あああああ! そんな事を平然と言うから勘違いする人が増えるんだよ!!」  恥ずかしい恥ずかしい。あああああ、もう、恥ずかしい。  赤くなっているであろう顔を両手で必死に扇ぐ。 「うーん、結構本気だったんだけどな」 「うわあああああ! もう止めてええええ!」  何だこの青春っぽい雰囲気は。慣れてないんだよ、こういう雰囲気。照れる。すごく照れる。恥ずかしい。 「ふふ、この照れ屋さんめ」  何だかとても楽しそうですね。今度こそ心の中で呟き、さっきよりも赤くなった顔をどうするか考えた。 「さっきのことだけど、なるべく心の声は声に出さないように気をつけなよ。君はよく声になってるから」 「うん。全力で気をつける」 「うん、いい子」  私の頭を優しく撫でるサクラを見て、引いてきた顔の赤さが戻ってきたのは言うまでもない。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!