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思い切って雨の中に駆け出した。
家に帰って、煙草を吸って。
何時も通りに、パソコンを開けよう。
暖かい珈琲を飲んで、気持ちが落ち着けば、漠然と俺の中にあるこの不安もどこかに消え失せるさ。
一人で生きていくのが怖い訳じゃない。
最近走った事のなかった俺の息が、情けないほど上がっていく。
身体のつらさにかこつけて、俺は自分から目を逸らす。
平凡な容姿の、取り立てて特徴のない、普通の男。
外面に努力なんてしたこともないし、する気もない。
人間、中身だろ?
そこになら、少しは自信があるんだ。
オフィス街の大きなビル群を横目に、雨の中を走って小さな古い我が家に辿り着く。息が上がって言葉も出ないから、俺は口パクで「ただいま。」と言ってみた。
もちろん返事はない。
この家に住んでいるのは、俺だけだ。
唯一の肉親の妹は、もうとっくに嫁に行ってしまって、音沙汰もない。
軋む廊下を濡れた靴下のまま横切って、風呂場に入ってから、俺はやるせない大溜め息を吐いた。
俺だって、彼女欲しいよ。
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