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「ほら、これお前のだろ?次からは盗られないようにするんだな」
少し照れが入ってしまい、バックを差し出しながら俺は顔を背けてぶっきらぼうにそう告げる。
だが、彼女は俺を警戒した様子を見せて一向にカバンを受け取ろうとしない。
まあ、無理もないか。彼女からしたら異国に来て言葉も通じないのに突然ひったくりに会って、それをまた異国の人間が持っているという状況なんだし。
「はぁ~…ほらよ」
「―――――!」
俺は自己完結すると、戸惑っている彼女に無理やりカバンを押し付けた。
言葉が通じないなら、誠意のある行動で示せばいい。昔、俺が教えられた言葉だ。
そこで彼女もようやく俺の意図に気付き、僅かではあるが、警戒心を解いてくれたようで俺の手からカバンを受け取る。
カバンを胸に抱えてホッとした表情をすると、彼女は俺に向かってニコリと微笑んだ。
「ありがとう……」
「お…おう……」
言葉こそわからないが、お礼を言っていることは仕草から何となく分かり、俺はどぎまぎしながらも返事をする。
ちょっと可愛いと思って彼女の笑顔に見惚れてしまったのは、まあ仕方ない。
だが、彼女の表情はすぐに引き締まったものに変わった。
「危ない!」
彼女の警告と同時に、俺は彼女を抱えて横に倒れるように伏せた。
伏せた俺達の上を熱量を持った何かが通り過ぎる圧力と熱風を感じ取る。
それだけで俺は相手が誰で、どのような手を持っているか理解していた。同時にそれに対する策を練る。
熱…ということは炎の魔法で氷を溶かして脱出したということか。俺の氷の魔法とは相性が若干悪いな。
考えながら俺は冷気を出して彼女を庇う様にして構える。
とりあえず炎の魔法で脱出したところまではわかったのだが、その経緯が俺にとって不可解だった。
炎の魔法なら確かに熱で氷の拘束を解くことは可能であるが、氷をこのスピードで溶かす程の熱だと、どうしても周りに漏れてしまい、簡単に俺達に気づかれてしまう。
特に警戒して神経質になっている俺に気づかれないように行うのは至難の業だろう。
となってくると、やはりというべきか彼の足に装備されているグリーグが秘密のタネだろう。
『私も…あれが怪しいと……思う』
俺が行き着いた考えにシプレは同意する。
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