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女子も新しく入ってくるメンバーには興味がないわけでもなく、歓声を上げる男子に生暖かい視線を向けながら口々にどんな子か話し合っていた。
どうやら女子寮が騒がしかったのは女子の転校生が来たからなのだろう。
独り納得している間にも話は進んでいく。
「はいはい、お前ら黙れ~。特に男子、今の反応で好感度は下がったと思え」
ネルヴ先生の注意に男子は「うげっ」というような反応を示してすぐに全員閉口する。
全員が静まり返るとネルヴ先生はドアに向かって異国語で「入れ」と告げた。
異国語?と疑問に思う間もなく、開かれるドアに俺を含めた全員が注目する。
コツ…
「えっ?」
次の瞬間、俺は思わず口を閉じるのを忘れてしまった。
長いポニーテールを靡かせて入ってきたのはつい先日俺が助けた少女、サクラだった。
んなバカなと思い、目をこすったり頬をつねってみたりしたが、痛い。つまり夢じゃないということだ。
さっきそんなテンプレはあるわけがないと言った手前ではあるが、あるかもしれないと思った瞬間である。
もう疑いようがなかった。転校生はサクラのことだ。
「んじゃ、自己紹介してくれないか?」
「はい」
唖然とする俺達を他所に、ネルヴ先生は話を進めていく。
ていうか、先生は彼女の母国語喋れるのかよ。
ネルヴ先生に指示されたサクラは教卓の横に並ぶように立って自己紹介を始める。
「私の名前はサクラ・ベル…」
だが、その自己紹介は名前を言い切る前に止まってしまった。
彼女は見てしまったのだろう。クラスの皆が聞き慣れない異国語に呆然としているのを。
皆の表情にサクラは少し怯んだ様子を見せる。
俺と正面切って自己紹介した時は、こちらの言葉で出来ていたのだが、やはりこういった大勢の前で自己紹介となれば、緊張も相まって咄嗟に出てこないのだろう。
しょうがないか、後でヴィオラにいじられようが何されようが知ったこっちゃねぇ。
ガタッ!
「「「……?」」」
そう決めると俺はわざと大きな音を立てて立ち上がる。
クラスメイトと先生は俺の行動の意味がよくわかっていなかったが、サクラは急に聞こえてきた音に注目する。
自分の存在を目立たせる。それが俺の狙いだった。
「カイ…ト?」
「よっ!」
彼女が俺の存在に気付いたのを確認した俺は、手を上げるだけの軽い挨拶をしてそのまま着席した。
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