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『精霊』によって成り立っている世界。
そう言っても過言ではないほど『精霊』というものは社会に染み込んでいた。
『精霊』は広義的にこう説明されている。
人によって作られた人口エネルギー生命体。生命とは言うが、それに医師もなければ感情も無い。製作コストの数十倍ものエネルギーを生成することから、クリーンかつ便利なエネルギー資源として現代社会ではなくてはならない存在。つまり彼らはエネルギーを作り出すために生み出され、『燃えカス』を残して果てていく存在である。
そして十数年前、その『燃えカス』にはさまざまな利用方法があることが発見された。
人間の意志をコントローラーとして様々な事象―『魔法』を引き起こす石。
それは『クリスタル』と呼ばれ、多岐に渡って利用されるようになる。
そして同時に『クリスタル』の出力を上げる装置『アーツ』が開発された。
今、世界は『精霊』と、彼らを元に生み出された『クリスタル』、『魔法』、『アーツ』の四つで回っている。
「ふぅ……」
ため息と共に俺は空を見上げる。
空は雲ひとつない晴天で、俺―カイト・ハルルクにとっては昔を思い出させる。そんな天気であった。
(夏が…近いな……)
などと思いながら額の汗を拭い、手に持っている食料の入った買い物袋を持ち直す。
早く帰ってこの中身を冷蔵庫にしまい込みたいほど今日は暑い。天気がいいことは別にかまわないのだが、この暑さだけはなんとかしてもらいたいところだ。
『カ~イ~ト~!早く帰ろうよ~…』
そう思っているところへ俺の頭の中に、駄々をこねる女の子の声が響いてくる。
それも思わず顔をしかめてしまうほどの声量でだ。暑さで気を張るのも怠いと思っているところへの不意を打ったこの声量である。耳へのダメージはでかかった。
おまけに俺が立ち直ろうとしている間も頭の声はずっと駄々をこね続けている。
イラっと来るのはわかってもらえるだろう。
『は~や~く~』
「うるさい…俺もそう思っていたところだ。だから黙ってくれ。ベル。頭に響くんだ」
『えぇ~……』
ピキッ…
正論に対して彼女―クラベル(通称ベル)はふてぶてしく拒否。若干青筋の浮かんだ表情のまま俺は喚く彼女の声を隅に置きながら、なんとか理性的になろうとする。
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