プロローグ

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 そうだ、今ここでこいつと揉めたところでどうこうなるわけじゃない。ここはひとつ諦めて早々に帰宅することが一番だ。  そう自分に言い聞かせて俺は歩き出そうとするが。 『おなかす~い~た~』 ブチッ! 「お前、飯食わなくても大丈夫だろうが!というかそれ以前に今のお前は飯食えないだろ!」  さすがにその一言には黙っていられるわけがなかった。  もちろん俺の周りには誰もいないわけで、普通に考えてここで俺が大声を上げたらかなり変な目で見られる。  だから、俺は怪しまれない程度になるべく声を抑えながらベルに一通りツッコミを入れると、耳元(脳内)で反論や悪口を撒き散らすベルを無視してがっくりと肩を落とす。 (こんなことなら寮の模様替えについて聞かなければよかった……) 「はぁ~……」 「すみません、どいてください!お願いします!」  本日何度目かわからないため息をついていると、後ろの方からベルとは違った女の子の声が聞こえてきた。  何か揉め事か?と気になって振り向いた瞬間、俺の真上を黒い人影が飛び越えていく。  思わず視線を奪われた俺は、一瞬ではあるが男性がカバンを持っていることに気づく。妙に服装と合わないなと違和感を覚えていると俺の体に何かがぶつかった。  反射的に視線をそこへやるとポニーテールに結った茶色の髪が舞う。 「す…すみません」  少女はよほど慌てているようで異国の言葉と共に謝るような仕草とすると俺には目もくれず駆け出して、先程と同じように人ごみをかき分けるように進んでいった。  だいぶ距離がある為、見え辛いが、その先には先ほどの人間。なるほどな、読めてきたぞ。  大方あいつはひったくりで、彼女はその被害者なのだろう。  人がごった返しているここいらの商店街は有名なひったくりスポットだ。このくらいよくあることである。 「ベル、リラに連絡。この場所と事情を警備隊に連絡するよう伝えてくれ」 『私じゃダメなの~?』  俺の指示にベルは若干不満そうな態度を示す。だが、すぐに彼女は態度を変えた。 『ま、ここは人の目が多いからね~。いつも通りじゃないとダメだもんね~』 「そういうことだ。頼まれてくれるか?」 『りょうか~い♪』
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