プロローグ

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 ちょっとふてくされていたが、最終的には気軽に答えるベル。どうやら彼女も早くなんとかしたかったらしく、その声色からは、先程までのやりとりのような気怠さや軽薄さは微塵も感じられない。その代わりにひったくり犯に対しての怒りが感じられた。  ベルが返事をすると俺はすぐに行動を開始した。  素早く脇道に入ると手荷物を置き、腰に巻いている剣帯に似た形状のモノに挿してある銀色をした筒状のものにへ両手を差し込んで引き抜く。  引き抜くと自動的に俺の両腕に締まるように閉じたそれは、装飾の内側にリボルバーのようなものが仕込まれたガントレットとなった。  アーツと呼ばれるこの武具は精霊の死骸からできたクリスタルをリボルバーに装填することで、クリスタルを使っての魔法を強化する道具である。  さすがに剣などのような大型の武器型は購入と所持に資格や制限がかかる上にお高いが、俺のアーツのようなガントレットなどといった防具型または道具型、そしてナイフや短刀程度の小型の武器型は別に特殊な資格や制限がかかっているわけでもないし、学生の俺ですら購入できるほど値段もお手頃な為、自衛ということで世間一般に染み渡っている。 「シプレ、事情は全て俺の目を通して見ていただろうから、わかってるよな?」 『うん…女の子のカバン…盗むなんて……許さない』  俺の問いかけにベルに変わって返事をする女の子の声が聞こえてくる。こちらはベルのような元気印とは違って、おっとりした感じの声であまり怒らなさそうな感じがある。  そんな彼女―シプレでも、いつも頼りにさせてもらっているし、今回は珍しく彼女も声に怒りを乗せてやる気になっている。 「いつも通りよろしく頼む」 『私の力は…カイトのもの……。だから……いつも通り…やる』 「じゃ、行くぞ」  そう言うのが早いか、俺は魔法を発動させて一気に跳躍した。  魔法発動中は身体能力と防御力が飛躍的に上昇する為、軽々と二階ほどの高さまで跳躍することができる。  更に、それだけでなく俺の体にも見た目的な変化が起こる。  ロングコートのように黒いオーラが俺の体にまとわりつき、その裾に雪の紋章が浮かび上がり、淡く水色に光輝き出すと同時に全体の色が白く変化した。  すると周りの気温が一気に下がり、一瞬で俺の足元に壁で支えられた氷の足場が出来上がる。
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