水中少女

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水が好きだ。水は広大で、深くて、甘いんだ。甘くて舌がとろけるんだ。もしも息がずっと続くなら、ずっと水の中にいるのに。息苦しくなって、水から出なきゃいけない。もがいて足掻いて溺れたら、水底に沈むから泳ぐんだ。蹴って殴って上がるんだ。水面に向けて泳ぐんだ。 そんな事を思った。左右の腕で交互に突き出して、叩いて引っ掻き後ろに伸ばす。プールを泳いでいた私は、岸である対岸に辿り着き、頭を上げ、ゴーグルを首もとに下ろす。呼吸が乱れていた。胸元まで浸かった身体を反転させ、背を岸に任せる。対岸を見れば誰もいない。左右には岸に手をかけ、プールから出る人間がいた。後輩だ。頼もしい後輩だった。私より早く対岸に辿り着いたのだ。 私の背後で膝を折り、手を差し出した後輩は言う。 「先輩、今年の大会どうするんですか?」 「んー、どうだろ。出ようとは思うよ、最後だもん」 後輩の手を借り、プールから引き揚げられる。っと、バランスが崩れた。後輩が私に抱き付く形でプールに落ちた。こんな事で怪我はしないけど、なんだか私は動けなかった。 底に背が少し触れる。勢い良く着水したからか気泡が無数に水面に浮上する。透き通った水は、ゴーグルをしていないからかぼやけていた。鮮明じゃない光景はただ水だ。視界に広がる水。眼下に謝るように手を合わせた後輩がいた。咄嗟に息を吸い込んだのだ。水の中で、器用に頭を下げた。
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