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私は手を軽く振り、別に大丈夫と返す。暫く、動かずに潜水していればぼやけた視界の先で後輩が首を傾げていた。動かない私に疑問を浮かべている。けれど、私は息が続かずに仕方なく身を動かす。立てば足が届くので、訳なく浮上した。
水泳帽子を剥ぎ、髪を掻き上げ、手で顔を拭う。目の前で浮上した後輩も同じ行程を済まして口を動かした。
「先輩、大丈夫ですか? すみません、なんか」
「良いよ、大丈夫だから」
軽く答える。本当に大丈夫だ。大会に支障はない。希にある事だ。もう慣れた。でも、そうなんだか残念だ。
「先輩?」
話しかけていたのか、話聞いてます? なんて顔で親しげに接する後輩の額を指先で弾く。
「ばーか。気を付けなよ。私も貴女も大会近いんだから」
「あはは、すみません」
照れるように笑った後輩に、私も笑う。私は頼もしい後輩を持ったものだ。歴代の先輩の記録を更新し、期待株なだけはある。一年の時には他校を牛蒡抜きしたのだから、やれやれ、本当に頼れる後輩だ。
「先輩、そう言えば卒業したらどうするんですか?」
「進路の話? 私は、なんだっけ、就職活動かな」
「大学に進まないんですか?」
「んー……、分かんない」
「私は進んで欲しいです。そうしたら同じ場所に入学して、また泳げますし」
「おお、よしよし、可愛い可愛い」
頭を撫でると戸惑う後輩。プールから身体を持ち上げ、担当教師が投げたタオル二つを受け取る。
「もう先輩ったら。私はもう子供じゃないんですよ」
「はいはい、先ずは拭く」
タオル一つを広げ頭に乗せる。私は首にタオルを回して水泳帽子片手に帰る準備に移行した。
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