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まだ湿った髪を風に任せ、水着を入れた鞄と学生鞄を手に歩む。後輩と時を共有し、夕暮れの海岸線を眺めた。腰たけ程度の塀が遥か向こうまで緩やかな曲線を描いていた。道路には時折車が流れる。
この塀の向こうは砂浜が近く、低い部分がある。後輩は軽やかに塀の上を水泳着袋を回して歩む。危なげもなく歩いていて、万一転けても大丈夫だろう。砂浜方面は低く、漂流物も少ないし。
「先輩は自由形ですよね」
「うん」
「海、綺麗ですね」
「夜は光が少ないから真っ暗だよ」
「浅いですよ、此処は」
「今の時期じゃあ肌寒いから」
「はは、そりゃそうですね」
よっと言うかけ声を後に歩道に着地した後輩。乾き切ってない髪は、栗色を深めていた。仄かに塩の香りが海から舞い、鼻を触る。
「ま、確かに綺麗だけど」
綺麗な海。朱一色のきらびやかな水面。遠くで何隻が動いていた。
「先輩は夢ってあります?」
「夢かあ。どうだか。水の中にいたいかな」
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