水中少女

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暗くなる時刻に漸く帰宅した。後輩と別れていた。玄関を通過しながら、二階に向かう。母が奥から気付いたのか言葉を発す。 「今年の大会、本当に出ないの?」 階段の途中で足が止まった。母は台所だろう。 「最後でしょ、高校。今ならまだ間に合うし、好きじゃない、泳ぐの」 「別に、良いよ」 「本当に?」 「いーの、良いったら、それはもう良い」 言い切り、母の次の言葉を待たずに階段を駆け、自室に入った。鞄と袋を投げ、電気を点ける。椅子に座り勉強机に両肘を突く。顎を支えた。 「泳ぎたいんじゃない……」 母子家庭で、母は朝から日中まで働く。私も今年からバイトをしているので部活をしたのは久し振りだ。後輩に部活で会ったのも久方振りである。大会の日付とバイトの日付が重なるので諦めていた。卒業が近いし、真剣に進路を決めないといけない。どうにか、母を楽にしたい。 そんな時に投げ出した鞄からメロディーが流れた。最近流行っている曲ではなく、ボグスワフ・シェッフェルの曲だ。完成を知らないスタンスに心打たれて、今では聴き慣れた曲だ。毎日一曲宛変更していた。
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