金村富雄

2/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
 金村富雄は、いかにも金持ちの名前を持っていた。この大都会になろうと背伸びをしている人口三十万人の地方都市・U市の高台に、その豪邸は周囲を威圧するように建っていた。 噂によるとスペイン風のその建物だけで十億円を越えるということだった。屋根は特注の瓦で葺かれていて、その瓦の値段だけで小さな建て売り住宅が二軒は買えるという代物であった。さらに建物の外壁も、直接にはほとんど外部の者の目に触れることはなかったが、これもまた特注のものが使われていたのだ。  金村富雄は、いかにも金持ちの名前を持っていた。しかし、その家は辛うじて家といえる代物であった。奇跡的にも一戸建てであったが、もちろん借家であり、雨漏りという今の日本では無形文化財に匹敵する素晴らしいものも見ることができた。  屋根瓦が何枚も割れているのが表からもよくわかったが、それを注意してくれる親しい友人もいなかった。壁は崩れかけて茶色の染みが広がっている。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!