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小さな殻がいくつかこぼれ落ち、やがてすべて花となる。あとは、萎れるだけ。いつ捨てようかな、とか考えるだけ。
「何日ぐらい、持つかな」
「せっかく買ったんだし、しばらくはきれいでいてくれないともったいないや」
あたしは花びらをつついて、ひとりごつ。
幼い頃はあまり花を活けようとは思わなかった。所詮摘むときだけが楽しくて、土から離れれば花はいずれ死ぬと知っていたからだ。
死んだペットのお墓には、野の花を何度も摘んでは供えた。萎れた花は適当に土手に捨てた。そしてまた、新しい花を摘んできた。
クローバーやバラなどの花びらは、ティッシュに包んで辞書の間に挟み押し花にした。でも、それもいつかは忘れ去られた。
花はいつだって、いつのまにか咲いては死に、また生まれる。
あたしは、こぼれ落ちた花びらをそっと拾い上げた。
「久しぶりに押し花にでもしようかな」何となく捨てるのがもったいなくて、ティッシュに花弁を広げて、蓋をするようにそっと二つ折りにした。
そして英和辞典の真ん中のページを開き、ティッシュにくるんだ花弁をのせ、パタリと閉じた。
「これでよし」
たいしたことはしていないけれど、童心にかえったような気がして、あたたかい気持ちになった。
「ふふっ」
あたしはくすりと笑って、そっと辞書を棚に戻した。 ー完ー
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