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花摘みをしたのは、何年ぶりだろう。
フラワーパークで摘んできたポピーと矢車草は、数時間たっただけなのにすでに萎れかけている。
急いでインスタントコーヒーの空き瓶に水を注ぎ、花を活けてみた。
花瓶がないのが悔やまれるが、これはこれで味があるように思う。
数時間たつと、花はいくらか生気を取り戻したようだ。ポピーの鮮やかなオレンジと黄色、矢車草の紫がかった青が、きれいな放物線を描いていた。
花弁は完全に元通りとは言えずややくたびれているが、蕾のまま摘んできたものは薄ピンクの花びらが今にもこぼれそうになっている。
花が開く瞬間ってなかなか見れないよね…。ふと、そんなことを考えた。
クリスマスのプレゼントを枕元にこっそり置くように密やかに、カメラをずっと構えていないと捕らえれない奇跡のように、
凡人の時間をすり抜けて、花は静かにその時を迎えるのだ。
朝目を覚ますと、小さな殻のようなものが、花瓶の横にポトリと落ちていた。
「あ、咲いてる」
思わず、そうつぶやいた。
花開く瞬間こそ見れなかったが、新しく生まれた花を思うと、何だかくすぐったい気持ちになった。
「確かにここで、咲いたんだ」
小さな確かな変化を、あたしは噛み締めた。
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