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僕は、がんばれ。という意味を込めて、ポンと來さんの肩を叩いた。
もちろん、弥斗はお姫様抱っこのまま。
「おか…えりっなさ…」
"おかえりなっさーーい!'
池田屋の次の日、満開の笑顔で手を振りながら僕たちの帰りを待っていた來さんを思い出す。
彼女はいつも、そんな辛い立場だった。
待つことしかできない。
一緒に戦うことも、行くこともできない。
だからこそ、きっとあの頃のように元気に明るくこの台詞を言いたかったのだろう。
そんな思いをさすがに汲み取ったのか、土方さんは玄関先というにも関わらず、來さんを強く抱き寄せた。
僕はやれやれ、と思いつつ一足先に家に戻った。
弥斗を布団に寝かせ、一息つく。
土方さんが…戻ってきた。
今頃になって実感が湧いてきた。
…良かった。
もう、これ以上大切な人は失いたくなかった…。
?に一筋の涙が伝って、僕自身眼を見張る。
「ははっ…。かっこ悪」
目元を軽く抑えて、乾いた笑を零す。
でも、大好きだったんだ。
大好き…なんだ。
走っても走っても…絶対に追いつくことのできない存在。
背中ばかり見てたけど、そんな彼の事が本当は大好きなんだ。
良かった…。
良かっーーー。
濡れた頬を指で拭われて、僕は再び目を見張る。
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