本編

2/11
274人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
蝦夷の旧幕府軍が降伏した。 土方さんが生き残っているのか、それとも最悪の事態に陥っているのか。 それは、僕には分からない。 明るい弥斗の笑い声… もうずっと聞いていない。 カラ元気を続ける來さんと、人形のように笑うことも泣く事もしなくなってしまった弥斗。 この家からは、賑やかな声が聞こえてこなくなってしまった。 弥斗が何を考えているかは、僕にもまったく分からない。 弥斗は、時間が空いたと思うと、必ず縁側に座って空を見上げている。 彼女が僕の目の前から消えてしまいそうで、僕は時折怖くなってしまう。 「総司」 「ん?…あ、來さん」 背中に声を掛けられ、僕は顔だけ後ろを振り返る。 そこには、料理の支度を終えた來さんが立っていた。 彼女の目元は毎日真っ赤に腫れ上がり、眠れていないのか、目の下は真っ黒なクマに覆われていた。 青白い彼女の顔色を見て、切なくなる。 「ご飯、できたけど…弥斗ちゃん、今日も無理そう?」 「…んー。ごめんね」 僕は、弥斗の代わりに彼女に謝罪をすると、ちゃぶ台の前へと移動する。 ホカホカのご飯は、なんとも美味しそうだ。 「謝る事ないよ。弥斗ちゃん、きっと責任感じちゃってるんだろうから…」 ははっと笑いながら言う來さん。 僕はご飯を一口口に含んで、顔を俯かせた。 責任を感じてる…か。 それを言ったら、僕の方が…… 「総司…?」 いきなり黙り込んだ僕を不思議に思ったのか、來さんが顔を覗き込みながら尋ねて来る。 僕はハッとして、無理やり口角を上げた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!