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蝦夷の旧幕府軍が降伏した。
土方さんが生き残っているのか、それとも最悪の事態に陥っているのか。
それは、僕には分からない。
明るい弥斗の笑い声…
もうずっと聞いていない。
カラ元気を続ける來さんと、人形のように笑うことも泣く事もしなくなってしまった弥斗。
この家からは、賑やかな声が聞こえてこなくなってしまった。
弥斗が何を考えているかは、僕にもまったく分からない。
弥斗は、時間が空いたと思うと、必ず縁側に座って空を見上げている。
彼女が僕の目の前から消えてしまいそうで、僕は時折怖くなってしまう。
「総司」
「ん?…あ、來さん」
背中に声を掛けられ、僕は顔だけ後ろを振り返る。
そこには、料理の支度を終えた來さんが立っていた。
彼女の目元は毎日真っ赤に腫れ上がり、眠れていないのか、目の下は真っ黒なクマに覆われていた。
青白い彼女の顔色を見て、切なくなる。
「ご飯、できたけど…弥斗ちゃん、今日も無理そう?」
「…んー。ごめんね」
僕は、弥斗の代わりに彼女に謝罪をすると、ちゃぶ台の前へと移動する。
ホカホカのご飯は、なんとも美味しそうだ。
「謝る事ないよ。弥斗ちゃん、きっと責任感じちゃってるんだろうから…」
ははっと笑いながら言う來さん。
僕はご飯を一口口に含んで、顔を俯かせた。
責任を感じてる…か。
それを言ったら、僕の方が……
「総司…?」
いきなり黙り込んだ僕を不思議に思ったのか、來さんが顔を覗き込みながら尋ねて来る。
僕はハッとして、無理やり口角を上げた。
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