本編

3/11
274人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
はははっと乾いた笑い声をあげれば、來さんは悲しそうに微笑んだ。 気まずい空気が流れる。 箸とお皿の当たる音だけが、その空間には響いた。 そのときーーー 「まいど~」 毎日来る訪問販売のおじさんの声が家に響いた。 「はーーい」 來さんは食べている箸を下ろして、玄関へと向かって走り出す。 僕はその後ろ姿を見ながら、箸を進めた。 玄関から2人の話す声が聞こえる。 何時ものことだ。 そう。 何時もの事のはずだった。 次の瞬間までは…… 「そいや、來ちゃん聞いたかい?」 「ん?何を?」 「近ごろ旅してる男が、それはそれは美しい顔をしているらしくてね」 僕は箸を止めて、その会話に耳をすました。 來さんの相槌が聞こえないと言うことは、來さんも硬直しているのだろう。 「その男が、この村に近づいているようだよ。…そこら中の女達が騒ぎ立てている」 呆れたように首を振るおじさん。 僕は、無意識のうちに玄関へと来てしまっていたようだ。 「そ…の話」 ポツリ、つぶやくと、2人の視線が僕に移る。 「どっかの誰かさんの事を連想させるね」 僕の言葉に、おじさんは不思議そうに、そして來さんはただ俯いた。 綺麗な顔立ちの旅人な… まさか、 いや、あまり期待はしない方がいい…か、
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!