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はははっと乾いた笑い声をあげれば、來さんは悲しそうに微笑んだ。
気まずい空気が流れる。
箸とお皿の当たる音だけが、その空間には響いた。
そのときーーー
「まいど~」
毎日来る訪問販売のおじさんの声が家に響いた。
「はーーい」
來さんは食べている箸を下ろして、玄関へと向かって走り出す。
僕はその後ろ姿を見ながら、箸を進めた。
玄関から2人の話す声が聞こえる。
何時ものことだ。
そう。
何時もの事のはずだった。
次の瞬間までは……
「そいや、來ちゃん聞いたかい?」
「ん?何を?」
「近ごろ旅してる男が、それはそれは美しい顔をしているらしくてね」
僕は箸を止めて、その会話に耳をすました。
來さんの相槌が聞こえないと言うことは、來さんも硬直しているのだろう。
「その男が、この村に近づいているようだよ。…そこら中の女達が騒ぎ立てている」
呆れたように首を振るおじさん。
僕は、無意識のうちに玄関へと来てしまっていたようだ。
「そ…の話」
ポツリ、つぶやくと、2人の視線が僕に移る。
「どっかの誰かさんの事を連想させるね」
僕の言葉に、おじさんは不思議そうに、そして來さんはただ俯いた。
綺麗な顔立ちの旅人な…
まさか、
いや、あまり期待はしない方がいい…か、
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