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♯2オアシス
――パチンッ
夜の大都会に甲高い音が短く響いた。
私が大樹の頬を平手打ちした音だ。
「ッタ、足元ふらついてるくせしてビンタは俊敏だな」
私に叩かれた左頬を押さえて舌で左頬を内側からなぞる大樹は、ご機嫌な様子で笑みを浮かべている。
「大樹が馬鹿なこと言うからでしょ」
グルグル回る視界を必死に大樹に定めて睨み付けるが、お酒と大樹の馬鹿発言のせいで余計に息が上がる。
「嘘に決まってんだろーが、なんだか知んないけどお前が凹んでるから景気づけに一発ボケてやったんだろーが」
「凹んでなんか……」
「ま、桃香がどうしてもって言うならセフレ3号にしてやっても」
大樹が言い終わる前に掌を構えると、大樹は「おー、桜井先生は怖い怖い」と言って、再び私の背中に腕を回し歩き始めた。
まったくもう。
冗談にしてもブラックすぎるわ。
今の私には笑えないっつーの。
でも、やっぱり凹んでるのはバレテたか。
さっきの店での涙もバレテるだろうし、誤魔化したつもりだったけど大樹にはお見通しだったみたいだね。
数分後、渋谷駅につき改札前。
大樹が何か言おうとした時、大樹の携帯が鳴った。
「あ、ごめ、ちょっと待って」
「うん」
大樹は背広のポケットからスマホを取り出すと、スマホの液晶画面を見てニヤリと笑った。ような気がした。
「もしもし、おう、颯太か?」
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