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しかし、彼女が指差す平原の一画は、明らかに白ではない色で覆われていた。
それは普通の人が「赤」と表現する色なのだろう。
「本当だ」
僕は別の色だとは言えず、彼女に合わせるようにうなずいた。
「ね?」
自分と同じものが見えているのが嬉しいのか、白石の顔に笑みが浮かぶ。
「写メ撮ろっと」
ジャージからスマホを取り出し、彼女は十メートルは離れた、色彩の違う風景に向かってシャッターを切った。
「ほら、やっぱり赤い雪だ」
写真が上手く撮れたのか、白石は嬉しそうに画面を確認し、僕にも見せてくれた。
確かに、雪面の一画だけが別の色彩に覆われいる。まるで、色のついた雪が降ったようだ。
「もっと近ければ、取ってくるのにな」
白石が悔しそうに色の変わった景色に目を向ける。
たかだか十メートルとはいえ、今僕たちがいるのは暖房の効いた旅館の廊下だ。
ジャージ姿、しかも履いているのはスリッパなので、雪の中を歩いていくには勇気がいる。
「みんなを呼んでこよっと」
この嘘みたいな光景をどうしても誰かと共有したいらしく、白石は窓を閉めると、小走りに部屋に戻って行った。
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