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また何日か過ぎて、ひとつの風が花の上を通りました。
世界中の空を巡る旅をしていた風は、その小さな花に興味を持ちました。
風は花にぐんと近づいて、ためしに声をかけてみました。
「やあ、君はとーっても小さくてかわいいね。まるで捨てられた金平糖(こんぺいとう)みたい」
風のからかいに、花はとても喜びました。
「誰かとお話をするなんて久しぶりだわ! ねえ、もっと何か話をして!」
風はますます花に興味を持ちました。
「そんなに暇なら、僕が今までの旅で見てきたことを話してあげてもいいよ」
「ええ、おねがい!」
風は、海を自由に動きまわる島の話をしました。
花は熱心にそれを聞いていました。
次の日も、また次の日も、風は花に話を聞かせにやってきました。
風が帰ったあと、スズメがやってきました。
「あの風は何しにやってきたの」
「私に旅の話を聞かせてくれるの。今日は空を飛ぶ女の子の話を聞かせてくれたわ。その前はバイオリンをひくネコの話だった」
スズメはケタケタと笑いました。
「デタラメのお話ばかりね。あの風はウソつきの風ね」
「うん、わかっているわ」
花はしあわせそうな声で、スズメに言いました。
「ウソの話でもいいの。私はあの風と話をするのが楽しいもの」
花はふんわりとほほえみました。
花は、とても自由なあの風のことが大好きになりました。
ところがある日、毎日かかさず花の前に現れていた風がやってきません。
「きっと、また旅をしているのね」
花は風がここに帰ってくるのを待つことにしました。
また何日かを、たった一輪で過ごしました。
その間に、雨が何度も、ざあざあと降りました。
太陽が何度も、かんかんに照りました。
そして花にとって、とても長い時間が過ぎ去っていきました。
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