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その頃、風は広い海の上をピューッと気持ちよく飛んでいました。
風が花に声をかけたのは、ただの気まぐれからでした。
風は花のことなどすっかり忘れていました。
風が大きく宙返りをしていたそのとき、かすかな歌声が聞こえてきました。
低い視線から
恋(こ)うる言葉が聞こえる
風が走るたびに
おどりながら
人が眺めるたびに
ほほえみながら
低い視線から
ほら、ごらん
恋うる言葉が聞こえる
雨が落ちるたびに
洗われながら
土に抱かれるたびに
うたたねながら
低い視線から
ねえ、気づいて
君を想う歌が聞こえる
風は何かを思い出して、またピューッと飛んでいきました。
久しぶりに風は花に会いにやってきました。
しかし、肝心の花がどこにもいません。
そのかわりに、枯れて茶色くなった草がありました。
「ま、まさか……」
花でした。
花は、ずっと風が帰ってくるのを待っていました。しかし、その前に自分に終わりが近づいてくるのがわかりました。
だから、花は歌いました。
自分の気持ちが風に伝わると信じて。
そして、終わりを迎えました。
もっと、会いに行くべきだった。
風は、初めて後悔しました。
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