第3章 歌

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その頃、風は広い海の上をピューッと気持ちよく飛んでいました。 風が花に声をかけたのは、ただの気まぐれからでした。 風は花のことなどすっかり忘れていました。 風が大きく宙返りをしていたそのとき、かすかな歌声が聞こえてきました。 低い視線から 恋(こ)うる言葉が聞こえる 風が走るたびに おどりながら 人が眺めるたびに ほほえみながら 低い視線から ほら、ごらん 恋うる言葉が聞こえる 雨が落ちるたびに 洗われながら 土に抱かれるたびに うたたねながら 低い視線から ねえ、気づいて 君を想う歌が聞こえる 風は何かを思い出して、またピューッと飛んでいきました。 久しぶりに風は花に会いにやってきました。 しかし、肝心の花がどこにもいません。 そのかわりに、枯れて茶色くなった草がありました。 「ま、まさか……」 花でした。 花は、ずっと風が帰ってくるのを待っていました。しかし、その前に自分に終わりが近づいてくるのがわかりました。 だから、花は歌いました。 自分の気持ちが風に伝わると信じて。 そして、終わりを迎えました。 もっと、会いに行くべきだった。 風は、初めて後悔しました。
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