始まり

2/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
私は、とある報道会社の社員である。 ここは私が働いているオフィス、昼休みの為人は私を含めて二人と閑散としており、空きっ放しの窓からギラギラとした日差しと、轟々とした都会の騒音が入ってくる。 『ーー続いてのニュースです。空母、「あかぎ」「あまぎ」を中心とした第二機動部隊が、(※)NATOの軍事演習に参加する為、先程横須賀港を出港しました。この空母には海軍の最新鋭の戦闘機、『30式艦上戦闘機「零」』が搭載されており、この戦闘機が国際的な演習に参加するのは今回が初とーー』 オフィスのテレビに、次々と兵器の映像が映し出された。 近年の、アメリカ一強時代の終焉による国際的秩序の混乱と、軍備の増加によってほぼ毎週のように何かしらの兵器が乗るようになった。 「…初の国産戦闘機、F-3「隼」の登場から15年か……早いものだな。」 私に向かって初老の男……私の上司が話しかける。 「ほんと、早いものですね。」 私達は軍事関係を専門にしていて、最近は特に忙しく働いている。 「(※)F-2改、F-35J、F-3、零……空軍の規模はどんどん大きくなっていく。」 「海軍だってそうだ。海軍は6隻目の空母を建造終了したし、そこにこれから大量の「零」が入るんだ。」 「陸軍だって新型のヘリや、電磁砲を搭載した戦車、どれも世界じゃ一級品だ。」 上司は、まるで自分のことのように得意げに語る。 「…今の日本は、 まるで100年前のようですね。」 私は一抹の不安を口にしてみるが、上司は何処吹く風だ。 「ハハハ、そうだな。まぁ良いじゃないか、お陰で隣国との領有権も有利に進められたし、ロシアの領空侵犯も急激にすくなくなった。」 「……そうですね。こちらも仕事が増えましたし、一応恩恵は受けていますし。」 上司が、確かにな(笑)、と言ってお互いに下世話に笑いあうと、二人とも編集作業に戻った。 この時は想像していなかった……いや、想像できる筈がない。今までの忙しさとはかけ離れた忙しさが、現実とは思えない現実と共に訪れることを…… ※NATO:北大西洋条約機構の略称。この世界の日本はこれに加盟している。 ※30式艦上戦闘機「零」、F-3「隼」、F-2改、F35J:全て日本のみが配備しているマルチロール機(多用途戦闘機)である。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!