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~小松基地兵舎~
あれからしばらく飛んでいると、基地の通信が回復し、改めて帰投命令が下った。
俺たちが着陸した小松航空基地は混乱していた。
何でも、俺たちも見たあの光は、日本中を包み込んでいたらしいのだ。不思議なことに市民が目に異常をうったえるようなことはないらしいが。
そして、国外との通信途絶。
光がおさまってから暫くの間、停電のような状況が続き、そのすぐ後には国内の人工衛星を含む全ての施設が回復したのだが、未だに海外からは通信が入らないらしい。
取り敢えず俺らはやることもないので、飛行時の証言をした後兵舎に戻った。
「小隊長……工藤小隊長、この状況は一体……」
イーグル2……一ノ瀬 疾風二等空尉が不安そうに尋ねる。
「こんな騒ぎは、中国ん時以来だな……ま、死者もいなかったことだし、別に対したことは無いだろう。」
この俺……工藤 晃(クドウ アキラ)一等空尉は、珈琲を飲みながらそう答えた。
別に俺は興味が無い訳ではないが、こういう問題は俺らが慌てても仕方のないことだ。
しかしきっとこんな状況だから、最悪の場合は俺らは大忙しになる訳で、それまではよく休んでなければならない。
まぁ若い連中が盛り上がるのに水は差さない、(※)日中事変も経験していない奴らだ、こういった特別騒がしい事態は初経験だろう。
「隊長隊長ぉ。」
イーグル3……滝野 淳(タキノ アツシ)二等空尉が、独特の怠そうな口調で俺に声をかけてきた。
「なんだ?」
「いや、さっきからおかしいんすよ。コンパスの方向が真逆でさぁ、日当たりの良い窓が北にあることになってんだ。」
「……壊れてんじゃねえのかそれ。」
「あり得ないっす、これ先週買ったばっかなんすよ。」
「どうせ中国産だろそれ。」
「いや、寧ろ高級な奴っすよこれ。」
ハッキリ言ってそんなの故障に決まっている。
もし故障じゃないとして逆に地球の磁場が変わってみろ、それこそ大惨事だ。
※日中事変:日本と中国の領土問題が発端となり発生した、中国人民解放軍と旧自衛隊の戦闘行動の全般を指す。一時は沖縄本島に中国軍が進行するなどしたが、自衛隊がこれを撃退、在日米軍が介入したこともあり日本側の辛勝で終わった。この出来事が、自衛隊を日本国防軍に変えたと言っても過言でない。
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