第1章

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★☆★☆★ 「はぁはぁはぁ」 暗い路地を、荒い呼吸で駆けていく人影があった。 もはや、周りの風景さえもぬりつぶしてしまう程暗くなった空には、怪しい輝きを放つ三日月だけが浮かんでいる。 その暗闇の中を必死に駆け抜けていく影は、男のものであった。 軽く天然パーマがかかった黒髪を 激しく風になびかせている20代くらいの男は、しきりに後ろを気にしながら全速力で走る。 その時、突然、男はシャツの襟を何者かに強い力で引っ張られ、地面に勢いよく尻餅をついた。 「う…うわぁ!」 情けない声を出して狼狽える男。 男は、ガタガタと震えながら、今にも泣きそうな顔で後ろを振り返る。 男にとって、尻餅をついた痛みよりも、確実に自分の背後にいる者の方が恐怖であった。 「た、助けて!俺はまだ死にたくない…!」 男は必死に助けを請おうと後ろを振り返った。だが、その願いも虚しく砕け散る。 「クス…、いただきます」 震える男の耳元で、何者かの妖艶な甘い声が聞こえた次の瞬間。 【ブシャアッ!】 まるで噴水のような音をたてて、彼の細い首すじから、勢い良く真紅の血液が吹き出した。 「グフゥ!」 同時に、彼の口や鼻からも、おびただしい程の血液が吹き出す。 血を吹き出しながらガクガクと痙攣する彼の姿はまるで、壊れたカラクリ人形のようであった。 最期に彼は、その焦点の合わない瞳に、妖艶に笑う紅髪の少女の姿を映してこと切れた。
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