天秤は終末を示し、崩す

5/5
前へ
/22ページ
次へ
電車が遥か遠方へと消えていく。 遠藤とマキの体勢は、その僅かな間で完全に入れ替わっていた。 状況把握が追いつかないのだろうか、殴られた頬を押さえたまま蹲り動かないマキ。そして、胸の奥底から湧き上がる新たな気持ちを拳に乗せて放った、遠藤。片方が片方を見下ろす構図であることだけが、動かぬ状況だった。 遠藤は、自分が何をしたのか、行動にかなり遅れて理解した。だが、一度決壊した感情は押しとどめることなどできない。押し寄せる感情は洪水になり、言葉となって迸る。 「そんなの……そんなの、昔のマキだって同じだったじゃん。マキばっかり幸せな花で、私はその日陰で枯れていくだけの雑草。マキこそ、見下してたでしょ。私のこと!」 言葉を言い放つほどに、遠藤は自分を動かした新たな感情の正体に気付いていった。 「マキだって幸せの絶頂にいるくせに、なんで私の幸せばっかり否定するの? マキはよくて、私はダメなの? 自慢話ばっかり? ふざけないでよ、マキだってそうだったじゃん!」 遠藤は、表れた新たな感情に任せて言葉の弾丸を打ち続ける。 感情の正体は、怒りと憎悪。 マキが直前まで遠藤にぶつけていたものと、全く同じであった。 「結局、マキは自分より下にいるものを惨めにして喜んでただけじゃん。最低だよ」 マキは、蹲ったまま動かない。 焦れた遠藤は、蹲るマキの傍らに経つと、腹を力の限りに蹴飛ばした。転がるマキの体は、やけに軽かった。 「……もういい」 遠藤は立ち上がらないマキにありったけ侮蔑の視線を向ける。 「もういいから……死ね」 最後に吐き捨てる一言を残し、遠藤は踵を返した。 恐らく二度と会うこともないだろう、かつての親友をその場に残したままに。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加