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電車が遥か遠方へと消えていく。
遠藤とマキの体勢は、その僅かな間で完全に入れ替わっていた。
状況把握が追いつかないのだろうか、殴られた頬を押さえたまま蹲り動かないマキ。そして、胸の奥底から湧き上がる新たな気持ちを拳に乗せて放った、遠藤。片方が片方を見下ろす構図であることだけが、動かぬ状況だった。
遠藤は、自分が何をしたのか、行動にかなり遅れて理解した。だが、一度決壊した感情は押しとどめることなどできない。押し寄せる感情は洪水になり、言葉となって迸る。
「そんなの……そんなの、昔のマキだって同じだったじゃん。マキばっかり幸せな花で、私はその日陰で枯れていくだけの雑草。マキこそ、見下してたでしょ。私のこと!」
言葉を言い放つほどに、遠藤は自分を動かした新たな感情の正体に気付いていった。
「マキだって幸せの絶頂にいるくせに、なんで私の幸せばっかり否定するの? マキはよくて、私はダメなの? 自慢話ばっかり? ふざけないでよ、マキだってそうだったじゃん!」
遠藤は、表れた新たな感情に任せて言葉の弾丸を打ち続ける。
感情の正体は、怒りと憎悪。
マキが直前まで遠藤にぶつけていたものと、全く同じであった。
「結局、マキは自分より下にいるものを惨めにして喜んでただけじゃん。最低だよ」
マキは、蹲ったまま動かない。
焦れた遠藤は、蹲るマキの傍らに経つと、腹を力の限りに蹴飛ばした。転がるマキの体は、やけに軽かった。
「……もういい」
遠藤は立ち上がらないマキにありったけ侮蔑の視線を向ける。
「もういいから……死ね」
最後に吐き捨てる一言を残し、遠藤は踵を返した。
恐らく二度と会うこともないだろう、かつての親友をその場に残したままに。
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