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バンッ!!
家中が揺れたのではと思うほどの勢いで玄関ドアを閉めた遠藤は、大股で居間へと向かった。
居間に入って一番に目に入るのは、遠藤に幸せと成功の日々をもたらした夢のアイテム。幸福の天秤である。
「何よ……何よ何よ何よ何よ、何なのよ……ッ!!」
そんな大切なものさえ、今の遠藤には目障りで腹立たしいものに過ぎなかった。遠藤の成功は全て、この天秤によって与えられたマキの〝幸せのお裾分け〟に拠るからだ。
さらに、実は遠藤は今日の再会に備え、家を出る前にこの天秤を使用していた。楽しい再会になるように……そう願っての行動であっただけに、マキとの決別は天秤への信頼そのものを揺るがしていた。
「何――なのよ!!」
ちっ、ちっ、ちっ……
壁掛け時計の正確なリズムが、妙に不快だった。
遠藤はやり場のない怒りを机への暴力に変換することで憂さを晴らそうとしたが、その行動は遠藤のつま先に鈍い痛みを残す結果しか残さなかった。
「何……なのよ……」
自分はマキと今日、決別してきた。
自分がマキを捨てたのだ。
断じてマキが私を捨てたわけでは、ない。
ぐるぐる回る思いを押し込めるように、遠藤は頭を抱えてその場に蹲った。
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