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ちっ、ちっ、ちっ……
時計の音が、奇妙な空間に規則的なリズムを生み出す。
男は舌打ちをすると、遠藤に詰め寄り語気を荒げた。
「逆に、お前さんは運気が異常に上昇していた。そんなお前さんが放ったほんの些細な『死ね』の一言――つまり〝願い〟は、運気が最低に落ちた彼女にとって〝不幸の具現〟という形で表れた! お前さんの願いが叶い、彼女に不幸が訪れる……わかりやすい構図だな。お前さんが、彼女を殺したも同然なんだ! わからないのか?」
やはり、遠藤は動かない。
焦れた男がその肩に手をかける。
「……おい!」
「……何、言ってるの。私は殺してない。私は悪くない。マキはただ、不幸だっただけ。私に関係はない。元から不幸になる運命だっただけ。そうでしょ?」
「……!!」
遠藤は顔を上げず、ようやく出した返事も、聞き取りにくい震える声だった。
だが、男にはそれだけで十分だった。
予想だにしない返事ではあったが、男は動揺することもなく、遠藤の肩に置いた手をすっと引いた。
「……そうかい。わかった、邪魔したな」
男は床に散らばった部品の一つ、秤の片側を拾い上げた。
小さな皿から落ちずに残った『一握の砂』を払うと、そこには擦り切れた紙切れが乗っていた。
幾度となく砂の乗せ変えが行われた事によって表面は傷だらけになっているが、うっすらと残る色は確かに笑顔を形作っている。
遠藤とマキ。
親友同士が隣り合って笑う、幸せそうな笑顔の残滓が、そこにはあった。
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