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数日前、遠藤紡は昔馴染にしてかつての同僚・マキから久しぶりに会おうという誘いを受け、受諾した。
そして今、遠藤はマキに指定された居酒屋の前にいた。
「……よし!」
遠藤は手鏡で化粧や服装を軽くチェックすると、両頬を軽く叩いて気合を入れた。
彼女がマキと会うのは、マキが会社を寿退社して以来である。当時と大きく変わる事の出来た自分をマキに見せようと、いつも以上に張り切っていた。
一歩踏み出すと、居酒屋の自動ドアが開いて機械的なチャイムが鳴る。
店員が一人、新たな入店客に近寄ってきた。
「いらっしゃいませ、一名様でしょうか?」
「あ、連れがいるんで」
笑顔で答えると、遠藤は周囲を見回す。
間もなく入口からそう遠くない場所に、懐かしい雰囲気の後ろ姿を見つけた。
「マキ!」
髪型は記憶にあるそれとは異なるが、長い付き合いが曖昧さを確信に補正する。遠藤はすぐに駆け寄ると、独り飲み始めていたらしい彼女の肩をぽんと叩いた。振り返る女性は、やはりマキであった。
「やっぱりマキ! あは、久しぶりだね!」
「ああ、紡。久しぶり、随分と明るくなったね。驚いたよ」
振り返るマキもまた、遠藤に笑顔を向けた。その美しさは遠藤の記憶と全く相変わらずだ。
だが今日は、割と派手な普段着を好む彼女にしてはかなり控えめの服装で、片ピアスも着けていなかった。また、服装と反してメイクだけはやけに濃い。面倒だからとメイクを嫌う彼女にしては、これもまた珍しいことだ。
「へへ、おかげさまで! マキも元気そうだね!」
「そう見える? ……へへ、よかったよかった。とりあえず座りなよ、紡。久々だし、色々お話したいな」
マキは隣の椅子を引き出すと、座部をぼすっと叩く。遠藤は荷物を机の端に乗せると、導かれた通りその席に腰を下ろした。
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