天秤は過去を繋ぐ

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その後しばらく、二人は酒を飲み交わす。昔話を交えながら、遠藤は自身の忙しく充実した近況について細かに語った。 昔からマキは、何をやっても上手く行かない遠藤の幸せを願っていた。ようやく語れる成功譚はマキを喜ばせられる。また、マキと同じ幸せという土俵に上がれたことが自身にも嬉しく、遠藤はひたすらに近況を報告し続けた。 今も昔も変わらない、仲の良い二人組。だがその有り様は、かつての二人とは同じようで異なっていた。 かつては、マキが自分の幸せを誇らしく語り、遠藤はそれを相槌や突っ込みを挟みつつ聞いていた。 ところが現在は、その関係が逆になっている。幸せ報告はひたすら遠藤の側から行われ、マキは相槌を打ちながら聞き手に回っていた。 「なんだか懐かしいね、後ろからぽんって叩いて、隣に座って。んで、リア充報告。昔の私たちが入れ替わったみたい!」 「……そうだね、本当にそうかも」 飲み始めてしばらく経った頃。何気なく言う遠藤に、マキはしんみりとした口調で返した。 遠藤はここで初めて、マキが笑っていないことに気付いた。 厳密にいえば、聞き手に回るマキは笑顔である。だが、その笑顔はあまりに哀しい、〝笑っていない笑顔〟だった。 遠藤には、なぜ彼女がそのような表情をしているのかが理解できなかった。以前のマキならば、遠藤の成功話など目を輝かせて食い入るだろう題材である。
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