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「ありがと、久々に紡の顔が見れて良かったよ」
遠藤が返す言葉を失っていると、マキは財布から一万円札を取り出し、立ち上がった。
だいぶ飲んでいたからか一瞬ふらついて、それからしっかりと両の足で立つ。
「え……?」
状況を理解していない遠藤の前に、マキは取り出した一万円札を置く。そしてお釣りは取っておいてと言い、荷物をまとめ始めた。
「え……ちょ、ちょっとマキ!」
遠藤は慌ててマキを引き止める。マキは逆らわず、動きを止めた。
「お金ならいいよ、私が出す。最近儲かってるしね。ごちそうするよ!」
「……そう」
遠藤は差し出されたばかりの福沢諭吉をマキの上着に押し込むと、にこやかに笑いかけた。
「やっぱり、そう。そうだよね」
だがマキは、感情のこもらない口調で一言言うと、そのまま踵を返して出て行ってしまった。
その直前、遠藤は確かに見た。
もはや完全に笑みの形を失った、冷たく光るマキの眼差しを。
そこに込められた意思は、恐らく……失望。
遠藤は初めて、親友に対して恐怖を抱いた。
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