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マキは遠藤を置いて店を出ると、待つことなくどんどんと先へ進む。
遠藤は慌てて会計を終わらせると、マキの後ろ姿を大急ぎで追いかけた。柵を挟んで線路に面した小路に、他の人気は見当たらない。
「ま、マキ! どうしたの? 何か変じゃない?」
叫びが、夜風に乗ってマキへと届く。その直後、眩い光と轟音が駆け抜け、柵の向こう側に敷かれた線路を特急電車が通過していった。
「……変?」
声が届いたのか、先行していたマキは呟きと共にようやく歩を止めた。遠藤はその背後に追いつき、手を握ろうとする。
――ぱしん。
握ろうと差し出したその手を、勢いよく弾かれた。遠藤の華奢な手は受けた威力のままに飛ばされ、逆再生のようにマキから遠ざかった。
「な……マキ――!?」
遠藤の瞳が、驚愕に見開かれる。
そしてその目は、振り返ったマキの表情を余さず映した。
マキは、泣いていた。
歯をギリギリと食いしばり、あらん限りの意思を込めて遠藤を睨みつける。涙を拭わず垂れ流したままの目には、怒り・悲しみ・憎しみ、そのどれとも取れる、強い敵意が渦巻いているのがわかった。
「変なのはどっちさ! なんで変わっちゃったの、紡……昔のあんたはそんなんじゃなかった!!」
今まで遠藤が聞いたことのない、心からの絶叫。見えない力に打ちのめされ、遠藤は動くことが出来なくなった。
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