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反対に、一度溢れ出したマキの激情は止まらない。怯んだ遠藤に、これでもかと言葉をぶつける。
「あんた、私をいじめてるの? 幸せな自分を見せびらかして、不幸な私を嘲笑いたいんでしょ!」
「ま、マキ……? 私は……」
「黙ってよ!!」
激情の呪縛から逃れようと必死の遠藤は弁解を唱えようとするが、激昂のマキはそれすらも許さない。遠藤の胸を両手の平で突き、押し飛ばす。
そしてよろけた遠藤が次の行動を起こすより早く、さらなる口撃の追い打ちを浴びせた。
「ずっと聞いてれば、あんた……口を開けば自慢話ばっかり! 私、言ったよね? 色々お話したいなって。なのにあんたは自分のことばっかりで、私のことなんて何も聞いてくれないじゃん!!私にだって、話したいことはたくさんあったのに!」
遠藤は、突き飛ばされたままの格好でマキの叫びを聞き続けていた。
一緒に、何かが崩れていく音が聞こえる。
「確かに私は、あんたが幸せになってくれればいいと思ってたし、幸せになれって言ってきたよ。でも! こんな風になっちゃうなら、紡は幸せになんかならなきゃよかったんだ!」
マキはここで一度言葉を切り、大きく息を吸った。
彼方から仄かな明るさが舞い込み、脇を通り抜けるだろう電車が近づいているのがわかった。
「今のあんたとは、顔も合わせたくない。あんたなんか……もう、親友でも何でもない!!!」
駆け抜ける電車のヘッドライトが、一瞬だけ辺りを白に染め上げた。
轟音の中にあっても、マキの言葉はしっかりと遠藤の耳に届いた。
届いてしまった。
「……う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
遠藤は、自分がそんなに速く動けることを知らなかった。
電車が通り抜ける一瞬の間に体勢を立て直し、同時に地面を強く蹴ったのだ。
取った行動は、殴打。平手ではなく、握り拳に依るものだ。
その対象となった女性は、全く不意を打たれた反撃に対応できず、その一撃を無防備な左頬で受け止め、吹き飛んだ。
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