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バイトに行く前、必ずスーパーでオレンジジュースを買って、駐輪場で飲む。井川浩二の習慣だった。これをすることで高校生気分を入れ替えられるし、バイトのミスをいくらか減らせるような気がした。
浩二は週四日「北京屋」という中華料理屋で働いている。路地にある店で、客入りはよくないが、店自体狭いこともあり、二、三人連れが三組ほどで席は埋まる。
基本的に店長とバイト二人の三人で回しているから、店がいっぱいになると目が回るほど忙しくなった。
浩二はペットボトルを開ける。そのときふと気になって視線を横に向けると、やっぱりあの人がスーパーの前にある喫煙スペースでタバコを吹かしていた。
あの人が誰だか知らない。金に染めた短髪に、いつもパーカーにジーンズ姿。バイトの時毎回見るものだから、自然と気になっていた。
駐輪場の横は従業員入口で、ドアの隣には畳まれた段ボールが積まれていた。段ボールはまだ梱包されていない。ほしい方は好きに持って帰ってくれということだ。
浩二は飲み終えたジュースのペットボトルを自転車のかごに投げる。雪の降らないうちにバイト先へ行こう。イヤホンを耳に指すと自転車のスタンドを立てた。
「おい、まだチャーハンできないのかよ」
厨房に入ってきた店長は、客に聞こえぬよう小声で二人を責めてきた。
「すみません」
浩二は大きなことで返すと「早くしろよ、客待たせてるんだからな」と言って、店内へ戻っていった。
今日はいつになく客が入れ替わり立ち替わり多く、バイト二人で厨房を回すのは少々キツイものがあった。狭い厨房は三人も入れない。店長は浩二たちに「代わろうか」と言ってこなかった。確かにクレーム処理は浩二たちではできない。その判断は正解だった。
「あーもう、こっちだって頑張ってるのに」
浩二は思わず愚痴る。
「仕方ない仕方ない、頑張ろう」
隣で中華鍋を回す吉原さんはぎこちなく笑った。
客が引いたのは二時間後、十時を回っていた。高校生が働ける時間を越えていた。
「お疲れ様でした」
「あぁ、お疲れ」
背中を丸めてソファーに座っている店長から生返事がくる。
浩二はエプロンを外し、すぐに着替えると裏口から店を出た。
駐輪場で自転車に乗る。バイトの疲れで体は重く、加えて眠たかった。しかし浩二は自転車のペダルを踏み込むと、胸躍らせながら公園へ向かった。
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