第一章

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「どこに連れて行くんですか?」  すると女の人はうんざりしたようにため息をついた。 「雨宿りだよ、これから冷え込むだろ」  金色の髪の毛は、暗闇の中でもよく目立つ。浩太は立ち上がると後ろについていった。  公園を抜けて、坂をあがっていく。女の人は案外歩くのが早く、浩太は追いかけるのがやっとだった。 「どうして、あの場所がわかったんですか?」  女の人はしばらくだまっていたが、 「三日前の今の時間、アンタが草むらへこの子を置いて行ったのを見たんだよ」    と嫌悪に満ちた顔で言った。 「すみません」    浩太は頭をさげる。  あのとき見られていたのか。女の人が怒っているのはきっとそのせいだ。こっちが勝手に移動させてしまったからだ。浩太は申し訳ない気持ちで、いっぱいになった。  途中「ついて来てもなにもないよ」と女の人はつっぱった口調で浩太に告げたが、浩太は聞かなかった。  着いたのは市営住宅だった。坂にはほとんど外灯が無かったので、明かりの多さに浩太は安心する。 「お姉さんの家ですか?」    浩太はてっきり家へ持ち帰るのだと思っていた。女の人は振り返り「あぁ?」と浩太を睨んだ。 「違げーよ、ここら辺に雨宿りさせに来たんだよ」 「そうなんですか、すみません」    浩太はもう一度、頭を下げた。  昼間とは一変して、静まり返っている市営住宅のどこにも、子猫を置くような場所なんてないと浩太は思った。小学生のころ、一度だけここに来たことがある。そのとき住人の誰かが騒音苦情で警察に通報した。幸い大した問題にはならなかったが、二度と来ないと誓った。  ここの人達は、子どもの声でも厳しい対応なのに、猫の鳴き声が夜な夜な聞こえてきたとなると、保護団体に相談して処分を頼むに違いない。簡単に察しがついた。  浩太は不安ながらもついて行くと、女の人はある場所で足を止めた。  市営住宅の公園。女の人は象の遊具の下に段ボールを入れる。確かにこの場所だと声はこもって、今夜は安全かもしれない。 「とりあえず、今夜だけはここに入れておく。また明日、元の場所に移動させておく」    女の人は淡々と伝えて、来た道を戻っていった。  
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