2人が本棚に入れています
本棚に追加
「悪かったね、猫。アンタが象の下に持って行ってくれたんだろ?」
「あ…はい」
浩二は怒られるような気がしてうまく返事できなかった。
「アンタ、毎日エサあげてるのか?」
「毎日じゃないです。バイトのある日だけ……」
「そっか、悪いな」
女の人はうつむくと足元にある石ころを蹴った。
「私、基本朝しかエサあげられないからさ、夜はどうなってるのかわからないんだ」
「朝は、あげてるんですか?」
浩太が尋ねると「まぁ一応」と女の人はすこしだけ恥ずかしそうに答えた。
浩二は意外に感じた。雪の日のことを考えれば自然だが、どうもこういった容姿の人はいい加減な性格のイメージがある。
「それに雪の日、ごめんな、私態度悪かっただろ? めんどくさいこと嫌いだからさ、あまり人と喋りたがらないんだ」
「いえ、別に何とも思ってませんよ」
「そう、それならよかった」
女の人は柔らかな笑顔を浮かべた。
しばらく無言が続いた。女の人がため息をつく。
「それじゃあ」
そのまま去っていこうとする。浩二はどうしてか何かしゃべらないといけないと思った。
「あの」
裏返った声で話しかける。
「あの、えっと、あの―――」
「加藤でいいよ」
「加藤さんは、あの猫飼わないんですか?」
するといつもの物憂げな表情で
「彼氏がね、猫は嫌いなんだってさ」
と、言った。
最初のコメントを投稿しよう!